「な、なんで怒ってるの?」
「別に。怒ってなんかない。嫌々な返事だなと思っただけだ」
「嫌なんかじゃない。嬉しいですって」
「そうかな。俺はこれでも、お前の逃げ場を奪ってしまった自覚位はあるんだ。嫌なら無理強いはしない。俺はお前にとって、せいぜい頼りになるお兄さんだもんな」

 ぱっと体を離して、背中を向けられた。

(ええっー。そんなことない。誤解されてる。たしかに忘れていたけど、あれは池に落ちたからだし)

 再会してから、ぶっきらぼうな優しさに助けられてきた。気が付けば生まれていた気持ちは、決して嘘なんかじゃないのに。

「そ、そんなわけないじゃないですか。私のこと忘れないでいてくれて、魔道具も作ってくれて、す、好きにならないわけ無いでしょう? 私がどれだけがんばって気持ちを隠してたか、知らないくせに」
「強制しなきゃ、呼び捨てにもしなかったじゃないか」
「だって。店長さんですよ! あたり前でしょう?」
「そうやって」

 アワアワと口もとを押さえていた手を、握られる。心臓が爆発しそうだ。こんなにもこんなにも、リアンの一挙手一動作に胸がときめいているのに、どうして信じてもらえないのか。

「敬語で話されるのも、距離を感じて嫌だ。俺よりリーディエやヴィクトルに懐いているのだって本当は気に入らない」
「だって、だっ……、もうっ」

 立ち上がった拍子にぐらついた椅子が、倒れそうになった。
 避けようとしたリアンが、エリシュカの腰を抱き寄せる。エリシュカはそのまま顔を上げて、彼の頬を両手で挟んだ。