「しかし……、お前にそんな金があるわけがないだろう。ブレイクか? あいつ、そんなに金があるなら、黙って俺を支援するべきだろう」

 リアンは冷静な顔を崩さずに、ゆっくりと息を吸い込んだ。伯爵が一瞬気圧されたように硬直した。

「お言葉ですが、伯爵様。ブレイク様はすでにセナフル姓となって十年以上経っており、その間、ご実家から支援を受けたことはないとおっしゃっています。ですから、あなたを支援する義理は無いかと存じます。それに、私に資金が無いとどうして言い切れるんです? ブレイク様の店を任されてから、もう四年経ちます。作成した魔道具の数も五十を超え、そのどれもが売り上げを出しています。特に使う予定もなく貯めていたものを、今回この商会を興すために使っただけのことです」

 それでも、キンスキー家の山林を買うだけのお金は、リアンにはないだろう。ブレイクだってそうだ。いくらかは銀行に借金をしていると考えたほうがいい。
 エリシュカはハラハラしながら、父とリアンの会話を見守った。

「この契約は破棄だ! お前なんかにうちの山林と娘を渡すなど……」
「へぇ。破棄して、伯爵家はやっていけるのですか? エリシュカに求婚していた男爵は、社交界で中傷を受け、婚約破棄を申し出てきたそうじゃありませんか。他に、あなたの借金を返す目途があるのですか?」
「なぜそれを知っている?」

 激高する伯爵とは裏腹に、リアンはどこまで冷静だ。意地悪く微笑むと、両手の指をゆっくりと織り上げる。

「セナフル姓となったブレイク様が、もう貴族ではないと侮っていたのなら、大きな誤算でしたね。魔道具の多くは貴族に売れるのです。ブレイク様が親しくしている貴族は、両手で数えきれないほどです。噂を流してもらうことなど、そう難しいことではありません」

 リアンが馬鹿にしたように問いかければ、伯爵は悔しそうに歯がみする。