この世界の宗教観に輪廻転生という概念はない。人は死んだら土葬され、土に還るのだ。
けれど、エリシュカは、前世という言葉を聞いた途端に理解できた。

「東方の宗教にある、輪廻転生っていう概念らしいね。同じ魂が何度もいろいろな人になって生きるそうだ。稀に、今の自分に生まれ変わる前のことを、覚えている人がいるらしい」

 まさにそうだ。絵里香という人間の人生が、丸ごとエリシュカの中に残っている。

「私のほかにも……いるんですか?」

 考えてみればあたり前だが、エリシュカはその可能性を考えていなかった。
 ニホンの話をして、母親に嫌がられてからは、エリシュカはすっかり臆病になっていた。
 学校に通っていた間も、他人にその話をするのは避けていたのだ。

「知らなかったです。私、……私だけが変なんだと思っていました。じゃあ、前世の記憶のある人は他にもいるってことですよね?」
「うん。そうだと思うよ。だからエリシュカは、そんなに自分を卑下することはないんだ。君の記憶が、僕を助けてくれたんだから、むしろ誇ってもいいくらいだよ」

 ずっとエリシュカの目を覆っていた霧が晴れたような気がした。

『誇ってもいい。卑下することなんかない』

 エリシュカはその言葉をずっと待ってた。父や母、弟たちから、今のままのエリシュカでいいと言われるのを。
 それをくれたのは、家族ではなかった。うれしさと共に少しの寂しさが襲う。
 どうして、エリシュカはあの家族の中で、ひとりなのだろう。

「……ありがとう。叔父様」

それでも、励ましてくれたブレイクにその寂しさを伝えることはできず、エリシュカはほほ笑んで、彼の言葉に感謝した。