没落人生から脱出します!

 セナフル家は、街から少し離れた森の入り口にあった。その立地を見て、エリシュカは少し疑問に感じる。商人の家系と言っていたから、てっきり人の多い場所──街の高級住宅街か、港の傍あたりに住んでいると思っていたのに。

(ああでも、空気は綺麗)

 森が近いせいか、空気が澄んでいて気持ちがいい。
 今、エリシュカはエリクの姿でここにいる。ブレイクの屋敷に来た名目は、魔道具店のエリクが、ブレイクから直接魔道具作りの師事を受けるというものだ。
 姪のエリシュカがこの屋敷にいることが、使用人の口からキンスキー伯爵に伝わるのを避けるためだ。
 ドアノッカーを叩くと、執事と思しき壮年の男性が出てきた。面長で丸眼鏡をつけていて、髪には少し白髪が交ざっている。

「あの、エリクと言います。その」
「ああ、ブレイク様から伺っていますよ。どうぞお入りください」

 眼鏡の奥の目が、優しく弧を描く。エリシュカはホッとして扉をくぐった。
 セナフル家は、二階建てで敷地が広い。魔道具のみならず、様々な商品を扱っているのだろう。絵画や骨とう品も目を引くような大きさのものがたくさん飾ってあった。

「やあ、エリク。いらっしゃい! 待ってたよ!」

 奥から姿を現したのはブレイクだ。
 彼は、その近くにいた使用人たちを呼びつけると、満面の笑顔でエリシュカを紹介する。

「『魔女の箒』で雇用しているエリク君だ。なかなか才能がある子でね。しばらく家で預かるつもりだ。いいかい? みんな。エリクのことは僕の子供だと思って、面倒をみてやってくれ」
「はい。よろしくお願いいたします。エリク様」

 使用人たちに思い切り頭を下げられて、エリシュカはビビる。執事は目を細めてじっとエリシュカを見つめた。

「そう言えば、少し面差しが似ていますな」
「だろうだろう!」

(叔父様! そこ、肯定するところじゃないです!)

 姪なのだから似ているところがあっても当然なのだが、出自を偽っている今の状況で似ていたら隠し子を疑われるのではないか。年齢的に、ブレイクにだって子供がいてもおかしくはないのだから。