「ここまで来たなら、店まで俺が連れて行くよ。夕飯もごちそうになっちゃったしさ?」
「夕飯?」
「お前への土産だったみたいだけど、俺が食事もとらずに探してるって言ったら、くれた。うまかったぜ、串焼き」

 挑戦的に笑えば、リアンは不満そうに膨れた。

「寄こせ。俺が連れて帰る」

 ヴィクトルの背中から奪い取るようにして、リアンはエリシュカを抱きしめた。

「ヴィクトル」
「ん?」
「お前が貴族嫌いなのは理解できる。だが、エリシュカを傷つけるなら、俺は許さない」

 珍しくリアンがはっきり牽制してくるので、おもしろくなってヴィクトルは茶化した。

「傷つくってタマでもなくない? 結構言い返してきたよ、エリシュカ」
「言い返しては来るが、傷ついてないわけじゃない」
「え?」
「我慢の限度を超えると泣くんだ。ちょっと引くくらいに」

 リアンは包むようにエリシュカを抱きしめ、彼女の麦わら色のかつらに唇を当てる。

「あれはもう見たくないからな」

 独占欲さえ感じる仕草に、ヴィクトルはため息をつく。

「はいはい。じゃあ、エリシュカのことは頼むね! 俺はもう帰るから」
「ああ」
「もしリアンだけで、エリシュカのことを守れなくなったら。俺を頼ってもいいよ。貴族は嫌いだけど、エリシュカはそうでもないなって今日思ったから」
「は? おいっ」

 リアンの声が背中に聞こえるが、知ったことではない。少しやきもきさせるのもおもしろそうだと思って、リアンは駆け出した。
 笑顔で彼の帰りを待つ、家族の元へ。