「大丈夫です。むしろ私が送ります。今は男の子ですから!」
「それもそうね」
結局、貧民街の入り口までリーディエを送っていって別れることになった。
「本当にここで大丈夫ですか?」
「うち、すぐそこだから平気よ。あなたこそ、気を付けるのよ」
「はい!」
リーディエと別れた後は、小走りで店の方に向かう。いいにおいのする包みを抱えたエリシュカは、やはり目に付くらしく、道路の端で何の気なしにたたずむ若者たちの視線が気になる。
しかしそれも、貧民街を過ぎれば少なくなっていった。
「……はあ、なんか緊張したぁ」
店の近くの通りにまで来ると、多くの店が閉まっているからか人けは一気に無くなっている。ここまで小走りだったエリシュカは、立ち止まって息を整えた。
(……ん?)
視線の先に、うつぶせになり地面に転がっている男を見つけた。
(なんだろう。怖い。ここは見て見ぬふりで行くべき?)
だが、病気だったらと思えば、無視するのも気が引けた。そっと近づいていくと、その姿には見覚えがあった。
夜に溶けるような黒い髪、端正な横顔は、ヴィクトルのものだ。
「ヴィクトルさん?」
「……エリシュカ?」
こちらに向けられた顔を見て、エリシュカは一瞬、別人だったかと思った。だが彼が自分の名前を呼んだことで本人だと分かる。それくらい、いつもの張り付けたような笑顔が消え去り、硬い表情をしていた。



