「……なっ、なにを」
「一応確認しておこうと思って。私もリアンさん狙っていたから」
「えっと、それは……」
エリシュカは途端にしどろもどろになる。リアンのことは好きだ。一緒にいると落ち着くし、傍にいることを許されている気がする。
ただ、それを言葉にしようと思うと、難しかった。
「頼りにしてます。私に兄がいたら、きっとあんな感じで……」
「あら、兄でいいの? だったら私、諦めないけど」
「駄目って言ったら諦められるんですか?」
思わず反射で聞いてしまった。だってエリシュカだったら、リアンを慕う気持ちは、どんな風に抑え込んでも、抑えられない気がする。
リーディエは肩をすくめて答えた。
「私にとって結婚とは、今の生活からの脱却を意味するの。リアンさんは身近な人の中で一番将来有望で、いい人だわ。だから彼に恋をした」
「それって、恋なんですか?」
エリシュカにはそうは思えない。打算と言ったら失礼だが、そんなものが混じっているように思えるのだ。
「そこに疑問を感じるくらい、あなたは心が自由なのよ。ここでは身分による差別が普通にあるし、治安だってよくない。誰だって、自分の利益を確保することに必死なの。貴族だけじゃなく、平民にだってこのくらいの打算はあるわ。あなたにそうなれとは言わないけれど、大半の人間が、そういう感覚を常識として持っていることは覚えておいて欲しいわ」
リーディエの言葉は真実だろう。エリシュカの心は、どこか異端なのだ。母が、自分の子でないと感じるような。
チクンと頭が痛む。そして、かつて泣いた記憶がよみがえってきた。母親の言葉に、傷ついたあのときを。沈み込みそうな心を救ってくれた人を。
(ああだから。リアンさんが好きなんだ)
「私、……リアンが好きです。ただ一緒にいたいって思うだけで、なにもできないですけど。……大好きなんです」
勢いで出た言葉は、宣言というよりは牽制だったのかもしれない。
リーディエは一度目を丸くしたけれど、まるで本当の姉のように優しく微笑んだ。



