没落人生から脱出します!

 いざヴィクトルと出かけるとなると、最近は少しばかり気が重い。リーディエの一件以降、ヴィクトルはどことなくエリシュカに冷たいのだ。
 仕事は食堂の換気扇の設置だ。換気用に作られていた小さな窓を取り外し、そこに魔道具の換気扇をはめる。固定するために、レンガや木材なども持っていく。
 エリシュカはヴィクトルの作業を手伝いながら、最後の仕上げである魔力調整を行うのだ。

「お使いになるかたの魔力を確認させてください」

 店主とその妻が主な使用者だ。店主は火属性が強く、妻の方は特化した属性がない。

「火属性が強いときのみ、魔力変換がかかるようにしておきますね」
「魔力の調整なんて必要なんだねぇ。魔力属性がわかるなんて、凄いね」

 魔力の属性診断は、貴族であれば初等学校で習うものだ。エリシュカはてっきり、平民の学校でも習うと思っていたのだが、そうではないらしい。
 エリシュカが店主たちと話しているうちに、換気扇の設置が終わっていた。
 換気扇は、動力自体はモーターを使う。その起動部分に魔道具が使われていて、風力を調節できるのだ。
 まず、ヴィクトルが正常に動くことを確認したあと、エリシュカが使用者に合わせて魔力調整をするのだ。

「……エリクは細かいことが得意なんだな」
「はい?」
「俺も魔力調整はブレイク様から習ったけれど、苦手だな。微妙なさじ加減ができない」
「そうなんですか」
「やっぱり何か違うのかな。俺たちとは」

 どこか距離を置くセリフに、背筋がひやりとする。
 この間から感じているよそよそしさはやはり気のせいじゃない。ヴィクトルは人当たりも良く、いつも愛想がいいので分かりづらいが、最近の彼からは、拒絶の空気が感じられるのだ。

「ヴィクトルさん……」
「ん? なに?」
「……いいえ」

 本気で笑っていなくても、笑顔で応対されたら疑いを口に出すことなどできない。
 エリシュカは胸が苦しかったが、それを伝えることはできなかった。