没落人生から脱出します!

 そんなある日。意気揚々とフレディがやってきた。

「こんにちは!」
「フレディ様。……ここへの立ち入りは禁止されているのでは?」

 リーディエとエリシュカが出迎えてそう言うと、フレディは大きく頷き、「でも、最後だから挨拶に来たんです」と続けた。

「最後?」
「僕、王都の学校に行けることになったんです。体調も良くなったし、運動もできるようになりましたし、勉強も追いついてきたので」
「そうなんですか」

 エリシュカはホッと息を吐きだした。王都の学校なら人も多いし、多種多様な人間がいる。
 バンクス男爵くらいの家格であれば、権力争いに巻き込まれることもない。大人しくしていれば平和に過ごせるだろう。

「良かったですね。体に気を付けて頑張ってください」
「ありがとう、エリク。僕、君と話すの、とても楽しかったよ。君みたいな友達ができるといいな」
「きっとできます」

 フレディが手を差し出してきたので、エリシュカも握手で応える。
 ただのエリシュカとして会えたら、彼とは友達になれたのかもしれない。

「お姉さんとも、もっと話したかったんだけど」

 フレディはリーディエに向き直る。赤い瞳をきらめかせて、茶目っ気たっぷりに笑って見せる。

「ほら、この目、珍しいから。同じだって思ったらうれしかったんだ。それなりに苦労もあるでしょう? 僕、散歩しているだけなのにジロジロ見られるし」
「そうですね。でも、ジロジロ見る人は羨ましがっているか、珍しがっているんですよ。なにもおかしくなんてないのだから堂々としていれば大丈夫ですわ」
「そっかぁ。へへ、お姉さん、やっぱり格好いいね」

 フレディはリーディエにも握手を求め、にっこり微笑む。

「月に一度は帰ってこいって言われてるんだ。過保護だよね、うちの親。もし許しが出たら、その時にまた会いに来るね」

 許しは出ないだろうと思いつつ、エリシュカとリーディエは、護衛に引きずられるようにして帰って行く彼を見送った。

「……これで、本当に終わりですね」
「そうね。これでよかったのよね」