弱く、優しい人なのだろうと、リーディエは思った。肝っ玉の強い母親が、助けたいと願うほどには。ただ、それだけだ。リーディエの想像の中の父親は、やはり想像の中のものでしかない。それよりも、見守ってくれているブレイクや、こっそり聞き耳を立てているヴィクトルやエリシュカのなんと心強いことか。

「……会ってくれてありがとうございました」

 うっすらと涙が浮かぶ。男爵はギュッとリーディエを抱きしめた後、手を離した。

「お母さんによく似ている。強くて優しい女性だ」
「ありがとうございます」

 それも、別に言われて嬉しい言葉ではなかったが、リーディエはお礼を言っておいた。

「じゃあ、男爵を送ってくるよ」

 ブレイクは男爵と共に店を出る。入口で見送ったリーディエは、妙にすっきりした気分だった。
 〝父親〟という存在に夢を見ていた。今日会ったことは、もしかしたらいい思い出にはならないかもしれない。けれど、リーディエが今後心置きなく前を向くためには、必要な時間だったと思う。

「リーディエさん……」

 心配そうなエリシュカと、困った顔のヴィクトルが、半開きの扉から顔を出す。その奥には、無表情ないつものリアンが立っている。

「みんな、なんて顔しているのよ! ありがとう。スッキリしたわ」
「本当ですか?」

 エリシュカがあからさまにホッとして抱き着いてきて、ヴィクトルは「頼りない男だったじゃん」と揶揄してくる。リアンはそれを、遠巻きに眺めて微笑んでいた。

(みんなが私の家族なんだわ)

 一緒にいる時間が、家族を作っていくのだ。

「ありがとう、エリシュカ」

 それがわかったのは、この子のおかげだ。