没落人生から脱出します!


「リアン、汚しちゃった」
「手で握りつぶせば当たり前です。……いつもの場所で待っていてください。片付けてきます」

 リアンは残っていた薪を割り、執事のところへ行き、「お嬢様の勉強時間が終わったので」と告げた。リアンに与えられた仕事の中で、優先順位が一番高いのは、エリシュカのお目付け役だ。執事は頷き、割った薪の片付けを別の従僕へと頼んだ。

 リアンが向かうと、エリシュカは、池が見える庭の一角にしゃがみこみ、楽しそうに鼻唄を歌っていた。
 大きなはっぱを二枚並べ、持っていた赤い実を、同じ数ずつのせていく。どうやら、葉を皿に見立てているようだ。
 リアンが近づいたのに気づくと、エリシュカはぱっと破顔する。

「リアン、こっちがリアンの!」

 きっちり同じ数の木の実を、皿に見立てた葉っぱにのせ、「どうぞ」と丁寧に差し出してくる。
 彼女お気に入りの『おままごと』という遊びで、リアンは二年前から何度もこの遊びに付き合わされている。
 普段与えられる立場のエリシュカが給仕の役をするのが、リアンにはとても不思議だった。

「リアンはお父さん役ね。私が、お母さん!」
「はいはい」
「手を合わせていただきますってするのよ?」
「こうですか?」

 食事前の祈りは、手を組むのが通常だ。なのにエリシュカは、両てのひらをまっすぐに合わせる。これも彼女の言う〝ニホン〟の風習なのだそうだ。