「そんな初花先輩は好きな人いないんですか?」
「わ、わたし?」
絢ちゃんから突然振られて、うーんと考える。
学校では勉強に生徒会の仕事。
家では妹と弟の面倒を見る。
毎日同じ生活を送る中で、そんな人は……
「いないかなぁ」
「えぇ、そんなに美人なのに!」
「そんなことないから! 変なこと言わないで、絢ちゃん」
わたしはそこら辺にいるような平凡な女子高生。
そう言う絢ちゃんのほうが余程可愛いと思う。
「もう……藤ヶ谷先輩もそう思いますよね?」
ニヤニヤと微笑む絢ちゃんの視線の先には、自分の席に座って黙々と書類の整理をする藤ヶ谷くん。
「……」
返事はない。
「藤ヶ谷先輩、聞いてます?」
「あぁ、綾瀬は可愛いと思う」
「……っ」
次に言葉が出なくなってしまったのは、わたしの方。
心做しか、資料の後ろに隠れた藤ヶ谷くんの顔も赤くなっているように見えた。
……たぶん、気のせいだよね。



