「お父さんが幸せなら、それでいいって我慢してた部分もあって……けど今は…お兄ちゃんとお母さんが出来て…嬉しい」
私の本当のお母さんは今どこに居るのだろう。
どこに住んで、誰と笑っているのだろう。
もしかしたらどこかですれ違っているかもしれない。
今も微かに覚えている記憶は、私の誕生日の日。
その日、母が少しの荷物と一緒に居なくなっていたということ。
「…柚、誕生日いつ?」
「……7月10日。…でも、なんにも要らない。ケーキもプレゼントも……その日は嬉しい日じゃないから」
その日は丁度1ヶ月後だ。
また来るんだ、あの日が。
お母さんが居なくなった日は私の誕生日。
小さな頃はその日が来る度に悲しさで泣いていたっけ。
『柚、誕生日にクマさんが来てくれたぞ!』
『いらないっ!そんなの柚ほしくない!』
プレゼントはお母さんがいいって、何度も何度もそう言ってお父さんを困らせてた。
それからその日はだんだんと祝う日では無くなっていって。
「…そっか」
すると兄はベッド脇に近付いて来る。
優しい顔をしたその人は、私のお腹付近をポンポンと叩いて。
まるで小さな子供をあやすみたいに。
「…今日は俺がずっとこうしてるから。安心して寝なよ」
その言葉を聞いて、私はスウッと夢の中へ入っていった。
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