「俺ここで勉強していい?」
「…うん」
「なーに素直じゃん。なんかお前が弱ってると調子狂う」
そんなの言うけど、私からしたらあなたが優しい方が調子狂うのに。
少し意地悪なくらいが丁度いいんだと思い始めていた最近。
それでも今日が土曜日で良かった。
休みの日だったから、この人も看病してくれるのだきっと。
だからこれは兄にとって暇潰しみたいなものに決まってる。
「…ねぇ柚、お母さんがずっと居なくて寂しかった?」
机に向き合う兄の背中がポツリと呟いた。
私はうとうとしていて、ちょうど眠りに入れそうなときだった。
だから半分寝惚けているのかもしれない。
「───…寂しかった……、なんでうちはお父さんだけなのって、ずっと思ってた…」
そんなことないよって、いつもの私なら言ってたのに。
兄とはまた違った笑顔で隠し通せれたのに。
元気だけが取り柄の真崎 柚ならば。
でも弱ってる身体は普段言えない言葉を簡単に出せてしまうらしい。
「…初めてお母さんとお兄ちゃんがこの家に来た日……嬉しかったけど、本当はどこか複雑だった…」
聞こえてるかな。
シャーペンの動きは未だに動いている。



