「…ごめん、もうだいじょーぶ……いつもこんな感じで寝て乗りきってたから…」
お父さんが仕事でどうしても休めないとき、こうして傍にスポーツドリンクを置いて何とか過ごしてたっけ。
いつぶりだろう、ここまで酷い風邪は。
たぶん小学生以来だ…。
「…1人で?」
「うん…。寝れば大丈夫なの、…絶対に治るから、」
そうやって自分自身に言い聞かせてたっけ。
母親が居なかったから、なんとかやるしかなかった。
でも今はこんなにも優しい兄がいる。
私の部屋に本や勉強道具一式を持ってきて、ベッド前に座ってる。
「わ…っ、」
スッと、枕と後頭部の間に腕が伸びてきたと思ったら。
「じっとしてて」
「っ、」
そのまま上半身をゆっくり起こされる。
その首元に頬が触れて、密着。
どうやら抱き起こしてくれたらしい。
「さすがにこれだけでも飲まなきゃね」
スポーツドリンクの入ったペットボトルにはストローが通されていて、口元へ当てられた。
ちゅーっと吸って、ごっくん。
「お、飲んだ。どう?口当たり良いでしょ」
コクンと小さく返事。
「よしよしお利口さん」
今日に限ってこんなにも優しいとは。
いや、今日だからか。
なでなでと頭に乗せられた手、少し掠れた甘い声は耳にスッと入って心地好い。



