適当にBGM程度に付けてある番組は、かつて有名だった人の特集をしているらしい。
格闘技とか全然興味も無く携わってもいない私は何ひとつ気にはならなかったけど。
“羽柴”という苗字に反応してしまった。
「…お兄ちゃん、ラーメン美味しくなかった…?」
「……いや、美味しいよ」
そこに反応したのは私だけでは無かった。
隣の男はじっとラーメンを見つめ続けたまま、箸が止まっている。
そしてさっきまで盛り上がっていた会話は無い。
「確か試合前の衝突事故で死んじまったんだよな。小さな子供も居たろ、息子が1人」
「息子と嫁残して…か。辛いな」
羽柴という苗字は別に珍しいわけじゃない。
私の“まさき”という苗字だって、よく男の子の名前に使われることが多いし。
そういう偶然って絶対そこらじゅうに散らばってるはずだ。
「あ、あのね!ここに秘伝のごま油を足すと美味しくなるんだよっ!」
「…本当に?」
「うんっ!不味かったら大将に文句言おうっ!」
「いやもう目の前に居るわっ!!聞こえてるわっ!!」と、大将とのコントに兄は笑った。
どうにかまた笑顔に出来たらしい。



