あれは夢だった?

ううん、夢じゃない。



「まだ付いてる……」



蚊に刺されたの?と、お母さんに言われてしまった。

「そうなの!!」なんて大袈裟に誤魔化して不思議がられちゃったけど。


これは蚊なんかじゃない。



「……あ、消えちゃった…」



そしてまた日が経つと、首筋に咲いていた花びらは跡形もなく消えてしまった。


夏休みが明けて学校が始まって、あの日のことを忘れてしまうくらいに家族もみんな優しくて。

学校へ行けば変わらないクラスメイトに友達の遥。


それでも変わったことは1つだけ。



「あのさ柚、」


「わ、私用事があったんだった…!!ごちそうさまっ!!」



用事なんてない。

むしろ本当はご飯のおかわりをしたいくらいだった。

それでも食器をシンクに運んで、勢い良く部屋へと駆け上がる。



「柚ちゃんデザートにイチゴがあるわよー?」


「ありがとお母さん!あとで食べるっ」