「勉強机もベッドもある。こんなに全部揃ってていいの?」
「もちろんです!お父さんってば息子が出来るからって張り切ってたんですよっ」
「柚、敬語」
あっ、ごめんなさい…と反射的に謝った。
“柚”と、呼び捨てをこんなにサラッとしてしまえるこの兄。
いいのだろうか夢じゃなくて。
いや、夢にされて堪るものか。
「柚の部屋は隣?」
「う、うん。お父さんとお母さんの部屋は下で、2階は私達の部屋と物置部屋だけだから…」
案外スムーズに敬語は取れたみたいだ。
生徒会長で3年生で先輩で、まさか学校イチ人気者の人が今日からお兄ちゃんだなんて。
気を緩めてしまったら頬がニヤニヤでだるんだるんになりそうだ。
「そっか。勉強とか分からないことがあったらいつでも聞きに来てくれていいよ」
「ありがとう…お、お兄ちゃん…」
初めて呼んでみた。
二人きりだから、例えどんなに消えそうな声だとしても聞こえているはず。
そして彼のような人は笑って返事をしてくれるに違いないのだ。
違い、…ないのだ。
「───っと、まぁこれくらいでいいか」



