少年の父親はその日、『俺は必ず勝つから大丈夫だ』と言って息子を大会へと向かわせたらしい。
そこには母親の応援も付けて。
そして息子は大会で優勝を果たしたが、父親は帰らぬ人となった。
「…どんなに強かったとしても結局死んでんじゃんって、意味ないだろって。俺そのとき父さんをすごい責めた」
「ま、守ったんだよ」
「え…?」
「お父さんは、強いよ。だって息子と奥さんを…守ったんだよ」
お前なんかに何が分かるんだよって、言われちゃうかもしれない。
それでも気付けばそんなことを言っていて。
この人が前に欲しいものを“父さん”と答えた理由がやっとわかった。
きっとこの人は、最後に1度でも父親に会いたかったんだ。
『大会で優勝したんだよ父さん』って、言葉でちゃんと伝えたかったんだ。
「お父さん、安心してください」
私はその横に並んでしゃがみ、お線香を立てる。
手を合わせてお墓の中に居る彼の父親へと語りかけた。
「この人は、今は私の兄になって毎日笑ってます。意地悪だし優しくないし、私を下僕のように扱う人だけど…それでも私の自慢の兄です」
私、最近たくさんたくさん泣いてるなぁ。
お兄ちゃんの前だとこんなにも簡単に泣けてしまう。
でも今は、泣かない兄の分の涙だ。



