お母様があたしの顔を見て色々思い出したり、後悔して苦しんだりするくらいなら、あたしは二度とこの敷地に脚を踏み入れない覚悟もしてた。

だってそれが1番やと思ったから。


あたしも寂しいけど、解決してから離れれるならそれでええって思った。


けどお母様は戻ってくるように言ってくれた。

今後ともそう言う感情と向き合ってくれるってことや。

やから、ごめんは、聞きたくない。
謝ってほしくないから。


「それでは客室を用意しますね」


来客は久しぶりだから片付けなきゃ。そう志木は立ち上がった。そんな志木を凍りつかせるのはお母様だった。


「客室?2人とも杏の部屋でいいでしょう。志木が大きいベッドを購入していたじゃないの」

……お母様って強いよな。

ピシッと音がするように、固まった志木にヒビが入った。側から見たらおもろいだけやけど。


「夜ご飯もうちで食べなさい。東堂組の方へは明日に。今行くと帰してもらえないだろうから」


せっかくだからみんなでディナーにしましょう。それじゃ、仕事に戻る。とお母様は言い立ち去る。


「杏。あなたの考えたケーキ、おいしかったわよ。また作って持っていらっしゃい」


机の上には完食済みのお皿が。
笑顔でお母様は部屋を出た。