今夜はずっと、離してあげない。





軽く絶望に浸っていたとき、チン、という音がキッチンに響き渡る。


ああ……、焼きあがってしまった。




「焼き上がり具合、どうですか?」

「……固さは上々だな」

「キッチンをさらに荒らす予感しかしないです……」

「お前はなぜ家に帰ると加減というものができなくなるんだよ……」



私の不器用なところは、どうやら加減らしい。

伽夜に言わせれば、0か100、ようするに超極端な人間だと言われたことがある。


たとえば、そう。

今からしようとしているガナッシュを搾る工程にて。


私はおそらく力加減を調節できずに、変にドバッと出してしまうか、すっごい少なく出してしまうかの二択。



「お菓子作りってこんなに憂鬱になるんですね……。はじめて知りました」

「いや、それはたぶんお前だけだと思う」