今夜はずっと、離してあげない。




ぱたん、と見ていた料理本を閉じて、作業にとりかかろうとする、ベテランおかあさんの腕をあわてて掴む。



「え、あの、本は……?」

「レシピはもう覚えてる」

「記憶力よすぎでは……?」

「何回か作ったことあるし」



マカロンを……?………あの、伽夜が?

……すごいしっくりこないのは、やはり顔のせいだろうか。



「……母さんに作っただけだからな」

「え?……あ、ああ、そういう心配ではないです。ただ、マカロン作ってる伽夜は想像以上にしっくりこないなって……」

「言ってろ」



ため息をついた伽夜は、思い出したように私の手を指差して。



「あ。そーいや、マカロン作るならその包丁ガード外していいぞ。包丁使わないし」

「買った意味」

「まあ、これから一緒に夕飯作ったりするんだし、あって困るものではないだろ」

「これをはずして料理できる日は、」

「一生来ない」

「被せて言うのやめてもらえますか?」