「……うらんだり、してるんじゃ、ないの?」
「べつに。恨むほどのことをされたとは、思ってないし。俺を生かしていくうえで必要な選択だったともわかってる。……けど、一言くらい、面と向かってなにか言えなかったのかっていうのは、思った」
伽夜は基本、とても器用な人。
でも、自分の感情や想いを口に出すことに関してだけ、異様に不器用になってしまう。
それはたぶん、伽夜がとても頭がよくて、〝お利口〟だったからなんだろうな、と思う。
利口だったからこそ、他者を気遣える人だったからこそ、口を閉じるべき時がわかって、何も言わなくなる。聞かなくなる。
そして、その行為に慣れてしまえば、やがて何にも興味がない〝フリ〟ができるようになってしまって、結果、こんなに器用で不器用な人に仕上がったんだろう。
……でも、いまは。いまだけは。
どうか、素直に口に出してほしい。



