伽夜がどういう風の吹き回しで、お母さまとの面談を承諾したのかはわからない。
でも、それでも、まだ伽夜の話したいことは、何一つとして言葉にできていないということが、私にもわかったから。
ぎゅうっと握られている手を、同じ強さでまた握り返して、もう一度、ひく。
すると、すとん、と椅子に座り直した伽夜は、はあ、と心を鎮めるように息をはいて。
「……いきなり来られたらそりゃ驚くし、固まるし、っていうか、突然友達の親が現れたら誰だって気まずくなる」
「そ、そうだよね」
「……千井に限ってそれはないだろうけど」
ぽそりと落とされたちいさな言葉に、くすくす笑いを抑えきれなかった。
だって、ほんとうのことだったから。
千井は、文化祭の時に初対面である伽夜のお母さまに向かって、ハイテンションで話しかけていた。
コミュ力一体どうなってるんだろう。



