精神安定剤なんかじゃない。
それよりももっとずっと重要な、役回り。
素直になれない、とかじゃないんだと思う。
私がついつい、あかねさんならどうするかなと習慣で考えてしまうように、この人たちも、自分の思いを口にしないことに、口を閉じることに慣れてしまっているから。
だから、きっと、不器用な言葉しか吐き出せない自分を叱咤する誰かが、隣にいてほしかったんだと思う。
繋いだ手はそのままに。
しっかりと伽夜のお母さまの目を射抜きながら聞けば、おろおろと拙い声をあげた。
「え、あ、えっと、ね、元気に、してるかなって、思って。近況報告で、病気にもかかってなくて健康優良児だっていうのは聞いてたけど、せっかく日本にきたから、一目見ておきたくて。でも、あたしが会いに行ったら、絶対に、大事なお友達との空気をこわしちゃうと思って」
えっと、あの、と、思い浮かんだ言葉をそのまま吐き出しているかのようなか細い声に、くんっと、無意識に伽夜と繋がっている手を、自分の方にひいた。



