掴んでいた白菜に、濁った心と混じった滴が、ぽとりと落ちた。


それを食べる気にはなれなくて、ぐぐっと奥歯と唇を噛み締め、必死におさえる。



「は、い……っ、」

「……氷高あかねの意志じゃないにしても、お前は俺から見ても、充分あの人らしいやり方ができてたと思う。でも、それが時に真生にとって不都合になる時や、できない時があるかもしれない。その時は、俺が一緒に、よりよい生き方を考えるからさ」



くしゃり、頭を撫でる手が、またいちだんと、やさしい。




「─────氷高真生なりの生き方を、さがしていこう」


「……ふっ、ぅ、はい、」



この人からあたえられるやさしさを、いっときは義務だと思い込んだ。

彼は、あかねさんからもらったやさしさを、あかねさん本人に返すことができないから、代役として、私に返してくれているだけだと思っていたから。


でも、いまはそんなことはないと言い切れる。

言い切れるほどに、ちかくに、そばにいたから。とてもみじかくて、けれどながい時間を、ともに過ごしたから。