「……ほんと、もう、なに、言ってるんですか」




私じゃない。

私よりもっと他の誰かが、あなたの、千住サマの帰りを待ち望んでいるんだよ。


そこにあなたを帰さなくちゃ。

帰さなきゃ、わたしは。




「おれは、他でもないお前に、氷高真生に、ただいまって、言ってもらいたい」




ザァザァ降りの雨の中。

この人の声がクリアに聞こえるのは、傘の中だから、なのかな。




「……なにより、おれが帰りたい場所は、お前が帰る場所、だから」




片膝に頭を乗せて、そっぽを向く彼の視線の先には、私の住んでるアパートがある気がしたんだけど、それは気のせいかな。



この人はほんと、人の決心を揺さぶって、崩してしまうのがお好きらしい。


もう降参。白旗あげます。
あなたの勝ちです。


だから、大人しくあなたの元に帰ります。




「……じゃあ、一緒に帰りましょうか」