不幸だなんて思ったことは一度もない。
家に帰ったら、必ず帰ってきてくれる人がいたから。
家で母さんの帰りを待つのがすきだった。
ただいまの言葉が、なによりも俺を安心させた。
「……母さんの元に産まれて、よかったって、そう、思ってた」
子は親を選べない。親は子を選べない。
だからこそ、俺は、母さんの子でよかったって思う。
今も。この先もずっと。
俺を形成してくれたのは、母さんと、母さんが築いてくれた環境そのものだから。
「……千住クンは、お母さんが大好きなんだね」
今まで黙りこくっていた氷高あかねは、そう言って淡く微笑んだ。
「……嫌いになんて、ならない」
俺を置いて行ったあの人を、嫌いになれた方がいっそ楽だったんだろう。
けれど、そんなこと、到底できるはずもなかった。



