「……おれ、は……」
この時、その言葉たちを無視して保健室を出ていくことなど簡単だった。
けど、できなかった。
……いや。したくなかったんだ。
「あたしのこと、寝起きで〝かあさん〟なんて言い間違えるくらい、おかあさんに言い足りなかったこと、あるんじゃない?」
ボロいアパート。質素な食事。節約は常。
スマホなんて母さんがいなくなってから買った。
……そんな時のおれは、母さんに。
なにを。……なにかを。
「……しあわせ、だった」
………ああ、そうだ。
おれは、おれはあの時。
母さんがいなくなる前に、それを、伝えたかった。
「裕福じゃなくても、母さんがいたから幸せだって、そう、つたえたく、て、」



