「あの時みたいに、もっと遠慮なく色々言ってくれたら良いのに」

「……色々、って?」

 俯いたまま聞くと、カナは嬉しそうに笑いながら、わたしの横に移動してきた。それから、しゃがみ込んでわたしの顔を下から見上げた。
 身長差が三十センチ近くあるから、いつも見上げるのはわたしの方。だから、カナに見上げられて何だかとても変な感じがした。

「寂しいとか、一緒にいてとか、さ。あの時、拗ねて口を尖らせたハル、ムチャクチャ可愛かったよ」

 もうダメ。
 ……穴があったら入りたい。

 二度と、お酒なんて飲まないんだから。(あの時だって、お酒を飲もうなんて思ってなかったけど……)

 わたしは涙目になりながら、テーブルに突っ伏した。

 そんなわたしのお向かいで、カナが昼食の準備を再開したのが音で分かる。カチャカチャとカトラリーが並べられる音がする。

 じき、カナは

「ハル、用意できたよ。食べよ?」

 と言って、よしよしとわたしの頭をなでた。

「ごめんね。もう、からかわないから」

 その声が、あまりに申し訳なさそうに聞こえて、その瞬間、今日がカナの誕生日なのを思い出した。思い出すと、逆に申し訳なくなってくる。

 今日くらい、何を言われても我慢しなきゃダメ?

 ううん。でも、我慢はムリ。だって、恥ずかしくて身の置き所がない気持ちは、自分ではどうしようもないんだもの。

「……もう、言わない?」

 顔を上げると、カナがホッとしたように頬を緩めた。

「言わない、言わない」

「ホント?」

「うん」

「約束よ?」

「ん。……いつか、一緒にお酒を飲む日の楽しみにとっとく」

 カナは楽し気にニコッとものすごく良い笑顔を見せた。

「……お、お酒なんて、絶対に飲まないもん」

 わたしがそう言うと、カナはまたクスクスと楽しそうに笑った。