「ちょっと待ってね」

 カナは自分のベッドに戻り、枕元に置いてあったスマホに手を伸ばす。
 青白い灯りにカナの顔が浮かび上がった。

「一時三十五分」

 カナはそう言うと、スマホを伏せてわたしの方にまた戻って来る。

 日付が変わった。
 今日、今、この瞬間、元気で良かった。

 そう思いながら、私はベッドに起き上る。

「ハル? トイレ行く?」

 カナは今日もわたしの事ばかり考えている。
 気遣わし気にわたしの顔を覗き込むカナに、わたしは精いっぱいの笑顔を見せた。
 だけど、フットライトの薄明かりでは表情までは見えないかな?

「カナ、大好き」

 向かいにいるカナをギュッと抱きしめる。
 一瞬、カナは驚いたように息をのみ、それから、嬉しそうに笑ってわたしを抱きしめ返してくれた。

「ありがとう。オレも大好きだよ」

 カナがわたしを抱きしめながら、優しい手つきで髪をなでる。

「カナ、……お誕生日おめでとう」

 そう。

 今日は、カナの十九回目のお誕生日。そして、わたしたちの初めての結婚記念日。

「……あ、そっか。もう、今日か」

 カナは感慨深そうにそう言って、

「ありがとう、ハル」

 と、わたしの頬にキスを落とした。

 それから、カナはついばむようにわたしの唇にもキスを落とし……。
 そうして、気が付くと、久しぶりの大人のキスになり……。

 どれくらい時間が過ぎただろう?

 カナは静かに息を吐いて、それから、わたしをそっと慈しむように抱きしめて、背中を優しく何度もなでさすり、そうして、

「何もしないから、こっちのベッドで一緒に寝ても良い?」

 と言った。
 頷くと、今度は頬を合わせて、

「ありがとう」

 と囁くように言った。