もうすこし離れたところで待っていよう。 そう思って、踵を返そうとしたときだった。 「話し合いでどうにかなるなら、とっくにやってるよ」 苦しそうな声。喉の奥から絞り出すような声に、どくんと胸が跳ねる。 「これ以上、かぞ…を壊したく……んです。俺は大丈……ですから、放……ください」 そうして近づいてくる足音。 「おいっ……」 あわてて物陰に隠れたと同時に、蒲池先生の声が追いかけてくる。 「──────萩!」 それは、予想だにしていなかった名前だった。