「俺の冷え切った心も温めてよ。セクハラカイロ」

「おい、地味にピアス増やしてんじゃねえ」

「効いてる?聞いてないね」


「つーか着込みすぎ。あいつに貸してやれば」

「あーそうしたらよかった。ヤオもういった?」

「とっくにな」

「そっか、残念」


「さくら。お前さ」

「うん」

「いわねーの?」

「なにが?どっちを?……どれを?」

「全部だよ」




「そうだね。言わない」

「……あっそ。臆病者」




言わないんじゃなくて、言えないんだろ。



ちまちま付けていくのも面倒になり、『萩さくら』の横に全欄まとめて大きく×をつけた。



「あ、そこ。髪は違反してないから外して」

「うるせーよ」



ここまできたらどっちでも変わりないっての。

それでも言うとおりに頭髪のところだけ上手いこと消していると、ふと視線を感じる。


顔をあげると、さくらは先ほどと変わらずそこに立っていた。……が。





「……まだ?」

「もはや二重人格だよ、お前」

「あながち間違ってないけどね」



見る意味もないので、また手元に視線を落とした。



俺と二人きりになってからずっとだ。
いや……八尾が去ってから、のほうが正しいか?


どうせもう、この男の表情が変わることはない。