キス、涙々。



「ご、ごめんね……引き留めちゃって」


今さら申し訳なくなってきて、今からでもひとりで帰ろうかと廊下のほうを見た。



わたしが我慢すればいいだけの話だ。

幸いにも手は出されてない。

情けないけど、心に受ける暴力は慣れていた。




「やっぱりわたし帰るね」

「……なにか勘違いしてない?」


「え?……う、ひゃあっ」



ぐらりと身体が傾いたのは、ハギくんに腕を引き寄せられたから。


体勢を崩してその胸のなかに倒れ込む。






「もう帰すつもりはないんで」




思わず、ささやかれたほうの耳を押さえる。


見上げると……

至近距離にあるハギくんの口元が、ゆるりと弧を描いたのだった。