キス、涙々。



びくりと肩がはねたのは遠くから笑い声が聞こえてきたから。

行きでも耳にした女の子たちの声が、廊下の向こうから届いてくる。




「は、ハギくん。わがまま言ってもいい?」

「だめ」

「あと5分だけ一緒にいたいって言ったら、怒る?」



煮え切らないのはどっちなんだろう。

ひとりで帰る度胸もない。かといって送ってもらう勇気もない。


いまのわたしには、こうしてハギくんを引き留めるだけで精一杯だった。





ハギくんは顔を押さえて、はあー、と長いため息をつく。







「……だめって言ったじゃん」



怒っているようではなかったけど、わたしを見下ろす目はいつものハギくんじゃなくて。


無理やり感情を押し殺しているような、そんなまなざしだった。




どきり、と。


なんだか熱っぽくもみえる瞳にほんの一瞬、心臓が止まったような気がした。