キス、涙々。



「どうしたの?」

「いや、なんでもない……」


「ここまできたらひとりで帰れるよね。じゃ、ネクタイもらうから」

「う、うん。あ……ごめん、ネクタイぐしゃってなっちゃってる」

「いーよ全然」



なんだろう、この違和感は。


さっきまでのゆったりした様子とはちがって、まるでわたしを追い払おうとしているようにも見て取れる。



……はやく帰したがってる?



わたしがなかなかネクタイを返そうとしないから、ハギくんもさすがに異変を感じ取ったらしい。




「どうしたの?」

「や、てっきりわたし……」



こういうとき、自分の感情をうまく言葉にできればといつも思う。


わたしはハギくんみたいに口達者でも、美晴ちゃんのようにオープンな性格でもない。


もじもじと、手のなかにあるネクタイ──しかも人のやつ──をいじくりながら続けるべき言葉を考える。