「八尾、さん」
そのとき数人がそろそろと前に出てきて、頭を下げられた。
あだ名以外で呼ばれたのは初めてだった。
「ごめんなさい、その……今までイヤなことばっかりして、本当にごめん」
なかには目が赤くなってる子もいた。
顔をあげた同級生たちは、わたしの言葉を待っているようだった。
“いいよ”
たぶん、その言葉を待ってる。
許されて、すべてを清算したいんだと思った。
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おいぐず子!ちんたら歩いてんなよ。
あんた、うちらのことセンセーに告げ口したんだって?死ねばいいのに。
は?違う高校に行く?なに、そんなにうちらから離れたいの?
────じゃあ
ぐず子がうちらのこと忘れないように、
いまのうちからいっぱい遊んでおこうか!
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わたしには忘れたくても忘れられない過去がある。
傷つけられた心と身体は、いまも痛みを忘れられずにいる。
……なのに、この人たちは忘れようとしているんだ。
わたしにしてきたことも、全部。
もちろん、忘れてほしくなんかない。
謝罪も求めてなんてなかった。



