棗くんのキスには殺意がある



誤魔化したかったのか、なんなのか。


ちゅ、とわたしの唇を塞ぐことで返事を済ませた。



それが虚しくて、切ないものがさらにこみ上げる。これ以上は声が震えてしまうから何も言えない。


泣くことでリズムが狂ったわたしの呼吸を、頭のおかしい棗くんは、さらにキスで乱してくる。




「はあ、……ん、っぅ、」



容赦がない。

苦しい。

呼吸のタイミングすら与えてもらえない。



唇を無理やりこじ開けて、熱が中に入り込んでくると、もうそろそろ限界になってきて。




「茉結、」

「……んぅ、っ」

「おれがおまえに手をだすわけないのに。やっぱり、頭わるいんじゃないの」



ぐらん、と視界が揺れる。

それでもやめてくれなかった。



ころされそう。


いつか、きっと殺されそう。



怖いくらいに甘い熱に侵されてきっとしんでしまう。




「おれに会えなくても、離れていかないで。会えないあいだは、ずっとおれのこと考えてて。……お願い」



ぐったりして力が入らない体は、ぜんぶ、棗くんのものにされたみたいだった。




──────棗くんのキスには殺意がある。






E n d.