棗くんのキスには殺意がある




また、振り出しに戻ってしまう。


都合のいいときに都合のいい相手にされて、自分の気持ちは結局言えず。
好きだから拒むことができない弱さに後悔するのはいつものこと。



棗くん。



「……なつめくん、」



わずかに離れた隙に、相手の名前が零れ落ちる。

ぽろりと、涙と一緒に。



目頭が熱くなる予兆もなかった。


突然泣いたわたしを、たいして驚いた様子もなく見つめる棗くんは、今、何を考えているんだろう。



「棗くんは、なんでわたしと会おうとするの……、好きじゃないのに」

「茉結、」


「会ってもキスばっかり、それ以上は手出してきたことないし」

「……」


「他の子には色々、たくさんするくせに、なんで、わたしだけ……それだけで済ませて終わりなの? 手を出してもつまらない相手なら、初めから会わないでおけばいいのに」



嗚咽がこみあげてくる。

何も言わない棗くんは、こんなわたしのことを、きっと、面倒くさいと思っているに違いない。