いまから1年とすこし前。
そのときのわたしは……というか、いまもだけど。
あの頃はとくに。
お世辞にも打たれ強いとは言えないし、感情を吐き出すことも苦手だった。
人前で泣いたことはなくて、嫌なこともはっきり嫌と言えない。
いつも人目を気にして他人にへつらっているわたしは格好の的で、よく雑用を押しつけられていた。
あの日だって、わたしはクラス分のノートをひとりで運んでいたんだ。
つまづいて、床に落としてしまった大量のノート。
誰も拾うのを手伝ってくれなくて、みんな見て見ぬふりをして横を通りすぎるだけだったのに。
『おっ、だいじょーぶ?盛大にぶちまけたな』
その男だけは……時雨だけは、立ち止まってくれた。
『はい。これで全部────って、どした。大丈夫?どっか痛い?』
顔をのぞき込んでぎょっとする時雨は、
ウワサで聞いていた最悪の人物像とはかけ離れていた。
まあ、のちほどこの男はやっぱりクズだったことが判明するんだけど。
このときはただ、優しくされたことに頭と、胸がいっぱいになって。



