「でも?」
「……ごめんなさい」
彼女持ちの男に近づくのはイケナイコト。
わたしもわかってる。
弁解の余地もない。
時雨もクズならわたしもクズだ。
いくら謝ってもここにいない彼女には伝わらない、当たり前だけど。
悪いと思ってるなら今すぐ立ち去るべきなのに、そうすることはできなかった。
うつむいていたら頭に温もりが乗せられた。
顔をあげればすぐ近くで、黒い髪と瞳が揺れている。
白いレースのカーテンが窓から入った風にふわりと浮いて。
時雨は言った。
「あのときと同じ顔してる」
「……覚えてるの」
「当たり前だろーよ。そう忘れらんないって、あの顔は」
「そんなひどい顔してた?」
「ああ、してたね」



