それに彼と一線を越えたことはない。
丸岡くんは誰かさんとちがってわたしの嫌がることはしないもん。
わたしにとっての誰かさんはひとりだけだから、みずから暴露したりはしないけど。
星は星でも、わたしにとって時雨はポラリスだ。
これもしゃくだから絶対言わないけど。
「北極星、見えないかなぁ」
冬の放課後は日が落ちるのもはやい。
窓付近で硝子のような色をした空を見あげていたら、いつの間にかとなりに時雨が並んでいた。
「でも矛盾してるよな」
「うん?」
「萠音はさ、」
「うん」
「この状況。俺の彼女に悪いと思わないわけ」
「わたしだって時雨の彼女だったじゃん」
時雨の言いたいことがわかったから、ちょっと意地悪な言い方をしてしまう。
「いまの彼女にだよ」
「悪いと思ってるよ。でも、」



