可憐な花には毒がある



「なんで泣いてんの」

「わかんない」

「それはなんの涙なんだよ」

「わかんないってばっ……わかんないよ。
わかっちゃ、だめなんでしょ……」



視界がぼやけて、薄い膜のむこうにある時雨の整った顔もかすんで見える。

まぶたも胸も焦がれたように熱くなって、いろんな感情で頭がぐちゃぐちゃになった。




「わたしが泣いてるのは丸岡くんにフラれたから。好きだった丸岡くんと別れたから。だから悲しくて泣いてるの」



何度も、何度も丸岡くんの名前を口にする。


……丸岡くんごめんね。

この期に及んで本当にごめん。


でも言い聞かせるようにしないと心が壊れそうだった。


罪悪感と、みじめさで、どうにかなってしまいそうだった。




「……萠音」

「最後に笑ったらそれでいいんだよね」




だからおねがい、いまだけは泣かせて。



ぽろぽろとこぼれる涙。

やっぱりわたしは、時雨の前でしか泣けない。