ちがうの。
問題なのは、わたしが心配してるのは。
この現場を彼女に見られたらってことよりも……
「で、そろそろ本題に入るけど」
びくっと身体が跳ねたのは、あの頃よりもずっと伸びた髪を撫でられたから。
ロングが好きだっていう丸岡くんのために伸ばしたその髪を。
「なにがあったんだよ」
「なにもない」
「嘘つけ。俺がいることわかって来たくせに」
ここは時雨のお気に入りの場所。
わたしも何回も連れてきてもらっていたし、
おそらく歴代の彼女はみんなここで時雨と逢い引きしてる。
自分で言うのもなんだけど、校舎の端っこにあるからたまたま通りかかるなんてこともありえない。
「……フラれたの、丸岡くんに。ついさっき」
わかってたんでしょ。
丸岡くんと別れたこと、時雨は気づいてたんでしょ。
“この状況。俺の彼女に悪いと思わないわけ”
あのとき丸岡くんの名前が出なかった。
それにいまも、ほら。
何食わぬ顔してる。



