「俺もコンビニ行くわ」
絢斗くんは鍵と財布だけ持って、スニーカーを履く。何事もなかったように、夜の住宅街を歩く。
だけどさりげなく送ってくれるところは、相変わらず優しい。
「……今日の数学のテスト、難しかったね」
何を話していいか分からなくて、だけど絢斗くんからはなかなか話題を振ってくれないから。
だから全然どうでもいい話なんてしてしまった。
「お前バカだからね」
「……絢斗くんは、勉強しないのに頭いいよね」
「教科書ちょっと読めばわかるだろ」
「わかんないよ……」
わかんないよ。
紗英って誰なのかとか、何の電話なのかとか、私が帰ったら絢斗くんは紗英さんと電話するのかとか。
何で私と付き合ってることを秘密にするのかも、どうして私と付き合ってくれたのかも、私のこと、どう思ってるのかも。
絢斗くんのこと全然わかんない。
……わかんないから、知りたくなって。
そうやってどんどんきみの罠にはまって、もう抜け出せなくて。
絢斗くんの言葉ひとつひとつが毒みたいに私の体中をまわって、全身がきみを好きになっていくから。
──ずるいひとだね。