家に入り、私は、慌ててお茶の用意をする。私がお茶を用意している間、アウリスは何も話さず、なぜかこちらを見ている。

なんで?

緊張して、お茶を入れる手が震える。


「どうぞ」

私が、アウリスの前にお茶を出すと、アウリスは穏やかに微笑んで、

「ありがとう」

と言ってくれた。

私が、お盆を持って台所へ戻ろうとすると、アウリスが呼び止めた。

「レイナ。
 レイナにも話したいことがあるから、ここに座って」

話したいことって?

私は疑問に思いながらも、お盆をテーブルに置いて父の隣に座った。

「今日は、エルノに頼みがあって来たんだ。
 聞いてくれるか?」

アウリスが切り出すと、父は背筋を伸ばし、かしこまって答える。

「もちろんでございます。
 私に出来ることでしたら、何なりとお申し付けくださいませ」

アウリスはチラリと私に視線を(よこ)す。

「実は、今朝、王位継承権を放棄して来た」

…………え?

私も父も、言葉の意味がよく飲み込めずに固まってしまった。

「だから、俺はもう王子じゃない。
 ついては、俺はレイナと結婚してここで竜使いになりたいと思ってる。
 今日から、エルノの弟子として、娘婿として、ここにおいてもらえないだろうか」

…………はぁ?

意味が分からない。

なんで?

何がどうなって、そうなるの?


「あの、王子、おっしゃってる意味がよく分かりませんが……」

父も口をぽかんと開けている。

「だから、つまり……
 俺はレイナと結婚したい。でも、レイナは妃にはなれないと言う。だから、俺が、竜使いになることにした。それなら、大丈夫だろ?」

「え!?」

なんで?
どう考えても大丈夫じゃなくない?

結婚したいって思ってくれるのは、すっごく嬉しい。
私だって、叶うものなら、アウリスと結婚したい。

でも、王子様が竜使いになるなんて……