5分だったのか、10分だったのか……
永遠とも思える時を過ごした後、アウリスは腕を緩めた。

「ごめん。
 レイナを困らせるようなこと言って」

そう言うと、私の前に結わえてある縄梯子を下ろし、まず、自分から降りる。

「レイナ、おいで」

下で手を広げ、待っていてくれるアウリス。

私が地上に降り立ち、振り返ると、そのままアウリスに抱き寄せられた。

「レイナ、約束する。
 レイナと竜の谷は、必ず俺が守るよ」


 それを言うために、アウリスはどれほどの葛藤をしてくれたんだろう。さっき、私の背中越しに伝わったあの震えの中で、アウリスはきっと、最善の道を考えてくれたんだ。

 そう思うと、切なくて胸が苦しくなる。

私がそう決めたのに……


ここが、絵本の世界なら良かった。

どんなに貧乏でも、王子に見染められたら、祝福されて結婚できる。

そんな世界なら良かったのに。


 アウリスが腕を解くと、私は彼を見上げて言った。

「今日は、ありがとう。
 アウリスと会えて、一緒に飛べて良かった」

ダメだ。

なんで?

口を開けば、涙が滲んでくる。

私は、一旦、地面に目を逸らし、心を落ち着ける。

「遠くからだけど、アウリスをずっと応援してるから。
 だから、頑張ってね」

私はようやくそれだけ絞り出す。

「それじゃあ、さようなら」

私は、手を軽く挙げて別れを告げる。

そのまま踵を返して、イーロの下へ向かおうとしたのだけれど、キュッとアウリスに手首を掴まれた。

ダメ……

今、振り返ったら、涙がこぼれちゃう。

私は、背を向けたまま、足を止めた。

「レイナ、幸せに……
 必ず、幸せになれよ」

やだ……

アウリスには、言われなくない。

誰と?

誰と幸せになれって言ってる?

勝手だよね。

アウリスからのプロポーズを断ったのは私なのに。


「うん」

私は、アウリスに背を向けたまま、答える。

その返事を聞いて、アウリスは手を離してくれた。