アウリスは、苦しげな声を絞り出す。

「なぜ? 他に好きなやつでもいるのか?」

「いえ……」

そういうことじゃない。

「じゃあ!」

アウリスは、声を荒げるけれど……

「ダメなんです!
 アウリスは王子なんです。
 王太子様なんです。
 私は、ただの竜使いです。
 お妃様にはなれません」

私が、せめて貴族の娘なら良かったのに……

「そんなの!」

アウリスは、手綱を左手にまとめて持ち、右手で私の腰を後ろから抱きしめた。

そして、切なげにその心情を吐露する。

「俺は……
 王子に生まれたくて生まれたんじゃない。
 自由に外出もできない。
 友人も選べない。
 もちろん、職業だって。
 その上、結婚相手まで選ばせてもらえないのか?」

それは、そうかもしれないけど……

「それでも、私は、竜使いですから……」

腰に回された腕に力がこもり、背中にアウリスの温もりが伝わる。

「レイナは城で暮らすのは嫌か?」

絞り出すようなアウリスの声に胸が切なくなる。

「私が良くても、良くは思わない方々が大勢いらっしゃるでしょう?
 アウリスがいつか国王になった時に、国王を支えるべき方々から信頼を得られなければ、この国はバラバラになってしまうのではありませんか?」

アウリスは答えない。

私は続けた。

「私は、このエドヴァルドが好きです。
 自然豊かで、竜たちが暮らせるのは、この世界にはもうエドヴァルドしかないんです。
 お願いです。
 エドヴァルドを守ってください」


 かつて、竜は世界中に無数にいたらしい。
しかし、(いくさ)に使うために乱獲され、人だけでなく、竜も戦死し、数が激減してしまった。

 今、ひっそりと隠れるように、竜が、竜の谷のみで飼育されているのは、他国からの攻撃や侵略を避けるため。だから、どんなに不便でも、私たちは高い山に囲まれた谷の中で暮らしてる。

 もし、このエドヴァルド王国が崩壊するようなことがあれば、近隣諸国は即座に攻め入り、まず竜の居場所を突き止めようとするだろう。それだけは避けなければいけない。



 頭に鋭い風を感じた。

アウリスが竜笛を吹いたんだ……

 キーラは、翼の角度を器用に変えて、降下を始めた。


 キーラは城内の中庭に降り立ったが、アウリスは、私の腰に回した手を解こうとはしない。それどころか、左手も巻き付けて、後ろからしっかりと抱きしめられる。

 そのまま小刻みに震えるアウリス。

もしかして、泣いてるの?

けれど、そんなこと聞けるはずもなく……

私は動けず、しばらくそのままの時間を過ごした。