「大島? 俺。腹痛いから練習休む。池田先輩に言っておいて」
これまたそれだけ言うと、さっさと電話を切った。
「練習休むって?」
「サボる。帰るぞ」
「でも、本選もうすぐだよ?」
「こんなときまで他人の心配してるのか。俺はお前と違って優秀だから問題ない」
中江くんはいつものように嫌みな言葉を口にしたけど、私を見つめるまなざしは優しい。
練習を休ませてしまうことに罪悪感を覚えているのに気づかれているのか、彼は私の腕をグイッと引いて昇降口まで連れていく。
誰かが近くを通るたび、その大きな背中に隠してくれたので、おかしな髪形を笑われることもなかった。
中江くんがかばってくれたおかげで、校門を出ると少し気持ちが落ち着いてきた。
少し離れたグラウンドに野球部のユニフォームを着た人たちがちらほら見えて、私はマネージャーだったとハッとする。



