「柳瀬は試合に没頭するとスコアどころじゃなくなるもんなぁ。ま、ゆっくりできるようになればいいよ」


彼は私の頭をポンと叩いてから、次の練習に向かった。

触れられた……。

池田先輩にとっては何気ない行為だったかもしれないけれど、ずっと彼にあこがれている私にしてみれば頬が赤らむほどうれしい。


「倒れそう……」


熱中症ではなく、ドキドキで倒れそうだった。



秋季大会本選の二回戦はその週の土曜。

六回勝ち進めば優勝を手にできるが、もちろんそんなに簡単ではない。

優勝すると明治神宮野球大会への出場資格が得られて、全国の強豪校と対戦できるし、春のセンバツ出場が濃厚になる。


二回戦の相手は、一度も対戦したことがない公立高校で、監督や池田先輩を中心に相手校のチーム研究を念入りにして球場に乗り込んだ。